<   2010年 02月 ( 17 )   > この月の画像一覧

第二章 新たな香りを求めてー協会の画策

(この物語は、フィクションですが現実の調香の世界のあり方を元につくられてます。物語の中には、よく似た企業などの名称が出てきますが、あくまで想像の産物であり、現実との関係は読者の判断に委ねてあります。)
f0149554_17305553.jpg


 ガルバナムお爺さんが何をそのときに考えていたのか正確にはわかりませんが、少なくともこれから先にとって何が良いかを考えてのことだったと思います。僕は、若干18にしてアモン家の代表になったのですが、それは、父の葬儀を待たずして、お爺さんが全ての協会からの書類にサインしたことで始まりました。

 母は、まだ気持ちの整理がつかずに、すぐに起きては寝床に引き返すことを繰り返していましたが、ガルバナムお爺さんだけが、次々にくる来客に応接間で丁寧に応対していました。

 「今度のことは全て、協会からの策略に違いないよ。あんたもそれがわかっているはずだよ。何故、あの子にあとを引き継がせたんだ。何も知らずに会合なんかに出て行ったら、あれこれ利用されるに決まっているんだよ。最近は、理事長のヘイブン家さえ、今回のことの責任を取らされようとしているんだよ。只、あのローズウッドだけは、問題を追及する立場になっているよ。明らかに、理事長の席を狙っているんだろ。」

 祈祷師のイリスさんは、さも悔しそうにお爺さんにあることないことの不満をぶつけていた。ガルバナム叔父さんは何も言わずに聞いていたが、時々見たこともない厳しい表情をすることあったから、気持ちの上では、イリスさんに同調することはあるのだと思う。

 お爺さんは、本当は調香会のここ100年の歴史の中でもっとも多くの技術を身につけたということだったが、自分ではその力を表に出すことはなく、もっぱら弟子の育成に力を注いできた。父は生前から、ガルバナムお爺さんが今の調香会の基礎をつくったと言っていたが、僕には単に人の良い穏やかな普通のお爺さんにしか今まで見えなかった。

 「キモンは、死ぬ前日までデーモンの香りを追い続けていたのだと思う。おそらくそれが誰がやったのか、なんとなくは、わかったのだと思う。明日あたりの探索で、やつの遺体が見つかるかもしれないが、わしはどうもそれで何か新しいことがわかるんだと思う。」

 お爺さんは、声を潜めながらイリスさんにそう話した。勿論、僕はこれはあとから聞いた話だから、その場所にはいなかったのだけど、イリスさんはその後あわてて僕の家を飛び出していったらしい。何を話し合ったのかは、また後日書きますが、いずれにしても僕は、お爺さんに呼び出されて、アモン家の家督を継ぐべく儀式や役所への届けの準備にとりかかった。

 家督をついでも、そのまま大学には行くことが出来るのだけれども、色々な面で他の学生よりも免除されることも多かった。特に僕のような元々特殊な立場にいる人間は、それでなくとも特別視されることも多かったので、友人などはみんな同情的な目で見守ってくれていた。

 実は、僕にはずっと前から決まっていた許婚のような存在の女性がいた。母が随分前に父にその子を紹介したのだが、少し話しただけで、父は彼女に香りを作り始めた。

 「何か香りのルーツのようなものを貴方には、感じるね。僕が仮に死んだりしたら、ベチバーの助けにでもなってくれそうだな。」

 父は、生前に確かにそういうようなことを言って、彼女のことを母と一緒に随分ほめていたらしい。それからも、小さいときから僕の家には時々出入りしていたから、僕にとっては恋人というよりも、妹やずっと前からの身内みたいな存在に感じていた。

 バイオレット・ラグエルの実家は、代々王室に仕える宮廷庭師だった。ラグエル家は、その先祖が砂漠地帯に空中庭園をつくったことで有名だったが、多くの地域を旅するうちに独自の庭園づくりの技術を身につけていったらしい。

 「お父様は、何時も植物の相性は匂いだと言っていました。見た目はあまり似合わない花々でも、匂いがあえば素晴らしい生命の声を聞くことが出来るよ、とも。逆に今の街中の花やのようにに見た目だけで、組み合わすアートフラワーみたいなものはよくなくて、かえって花を弱らせて枯らすことになってしまうって。」

 バイオレットの父によると、木々や花々の匂いをもっともよく知っているのは、蜜蜂や蝶など小さな虫らしい。不思議なことに、これほどアモン一家と交流がある彼女もなぜか、親同士は一度も会ったことがなかった。しかし、父は、彼女を通じて色々なことの自然界の匂いの情報を得ていたらしい。

 そのバイオレットが、父の死後あまり我が家に来なくなったのは、それなりの理由があった。僕の家が忌まわしい出来事に包まれていて、近づくことが出来なかったせいもあるのだけれども、それ以上の例のローズウッドの息子が、彼女に求愛していることが原因だった。

 バイオレットは、今年で17歳になるが、ローズウッドの息子、ユーカリは25歳を超え、父の家業を継いで、3年ほどになっていた。理事の中では、もっとも技術力に乏しく、感性が感じられないといわれてきたローズウッドの一家にとって、彼女のような感性の持ち主との癒合は、新しい想像力を一家にもたらすものであったのかもしれない、貴重なつながりに違いなかった。

 「ユーカリさんは、とてもよい人だけど、内面に私と合う香りを感じる人ではないわ。一緒になったら、どちらかが、自分の香りを守るために滅ぼしてしまうもの。」

 バイオレットは、そう両親に訴えたが、両親のほうも彼女は、ずっとアモン家に嫁ぐものだと思っていたので、簡単には了承できないことだった。僕は、そのことを聞いたのは、それから暫くしてのことだったけれども、自分の人生の中ではもっとも感情的になってしまった時期だった。

 僕は、どうしてもバイオレットと一緒になりたかった。それは例え、自分がどうなってもよいとさえ感じていたと思う。感情的になって、いっそうのことローズウッド氏に掛け合おうとさえ思っていたが、ガルバナム叔父さんがそっと僕に近づいて、

 「ベチバー、今こそ力をつけていくんだ。この数ヶ月でアモン家のあらゆる秘法を学んでいかなくてはならない。キモンも、18歳の時には、マスターしていたのだから決して遅くない。アモン家にとって、キモンに代わって力を持つ人間が生まれてこないと、運が開いていくことはないんだよ。」



 それから、約1週間ほどしてから、やっと父の遺体が発見された。我が家は、その父の亡骸を静かに引き取り、三日三晩、このことが良い香りを一家にもたらすように祈り続けた。母も、僕も時には怒りや悲しみに心が満たされそうになったが、その都度お爺さんがそれを癒す香りを作り続けていた。お爺さんもその三日で、約は百種類の香りをつくることになった。

 「キモンの魂は、まだ簡単に浮かばれることはないんだよ。何が起こったかは、わからないが感じる世界からは、とてもよくないものが伝わってくる。またこの国の滅びのセオリーが始まったんだよ。キモンの魂が、地の底に落ちてしまったら、あいつは本物の悪魔になってしまう。」

 
 バイオレットほうは両親もしきりに、そのユーカリからの求愛を拒んでいたが、今回の事件を機にローズウッド自体の協会内での地位も大きく変わっていくことから、以前のように簡単には断るわけにはいかなくなっていた。
 

精神世界ランキング
 
にほんブログ村 メンタルヘルスブログ 心理カウンセリングへ
 多くの方が見れるようなクオリティに努力してまいります。 
[PR]
by fenice2 | 2010-02-25 14:36 | 香りの小説

第二章 新たな香りを求めてー協会の崩壊とアモン家の凋落

(この物語は、フィクションですが現実の調香の世界のあり方を元につくられてます。物語の中には、よく似た企業などの名称が出てきますが、あくまで想像の産物であり、現実との関係は読者の判断に委ねてあります。)
f0149554_17305553.jpg


 協会の会合が終わったあとは、何時もなら昼食会があるはずだったが、その日はなぜか開かれることがありませんでした。仕方がなく、父は急遽母に連絡をして自宅でとるべく家路へと向かったが、途中、山羊が引く車の中で妙な胸騒ぎがしてならなかった。帰り際、広報理事のローズマリーが妙な眼差しで父を見ていたからだった。

 「もしかしたら、僕に疑いがかけられているのかもしれないな。しかし、そうだとすると、。」

 そう思いかけて、父は急に山羊車の車を止めて、ふと思案しだしていた。騎手になにやら相談をすると、父は突然、そこを飛び出して、今来た道と全く別の方角に向かって走り出していました。父がいなくなった山羊車は、そのまま自宅に向かって走り出していた。ちょうど、その頃、アモン家では、協会の関係者をはじめ、軍隊や警察など多くの人が押し寄せていた。

 母は、最初こそ気丈夫にそれに対応していたが、流石に父に対する容疑があまりにも過大なので、眩暈を感じて、奥の部屋に引きこもるようになりました。父の仕事部屋や書斎にもたくさんの調査官が淡々と取調べを行っていた。

 「御当主は、意図的にデーモンの香りをつくった疑いをかけられています。あれほど複雑な調香が出来るのは、アモン氏以外には誰もいません。かねてから、アモン家では危険な技法を隠し持っているという情報が絶えませんでしたから、協会から国王に今回の事態についての報告をして、泣く泣く裁決をしたという次第です。」

 国王の秘書官ローズウッドは、うやうやしそうに母の前で今回のいきさつについて説明をしました。母が倒れてからは、僕と急遽ガルバナムお爺さんも同席していたが、いずれにしても父が帰ってこなければ、何の説明のしようもなかった。 

 「ベチバー、お前ももう立派な年齢だから、こういう時はしっかりしていないといけないよ。お前の父は、こういうことが起こるずっと前から、わかっていたんだよ。これからどうなっていくのか分からないが、アモン家は、3代に渡って、心の平安の香りをつくってきたことには間違いないんだよ。」

 そういって、お爺さんは大きな目をさらに大きくして僕をしっかり見つめていた。お婆さんのホワイトリリーはもう随分前に亡くなってしまったけれども、生きていればきっと同じようなことを言ったかもしれない。1時間ほど、そういったしんしんとする時間をすごしていたが、やがて大きな羊に乗った役人がある報告をするために我が家にやってきた。

 一連の報告を聞いて、ローズウッドはなにやら少しだけ顔をうつむいて、曇った表情をさせていました。彼自身、子供の頃からアモン家の香りにはお世話になっていたからだった。まだ彼が小さい時で、なかなか人と馴染めないのを嘆いて、彼の母が何度もガルバナムお爺さんの元をたずねてきた。

 「自分のことをもう少し自信が出るような気持ちが起こる香りをいろいろ使ってみましょう。でもこの子は、人と馴染めないのは、それなりの理由があるから、まずそのことを聞いてあげるのが先なのかもしれませんね。」

 ガルバナムお爺さんは、ミントや海草、ジャスミンやムスクなどを少し入れて”椰子の実の風”という名の香りをつくりました。

 「この子は、将来、ずっと孤独な中で仕事をやっていかなくてはならのかもしれない。今のうちから自分でその環境をつくっているんですよ。もともと強い子です。お母さんの心配は分かりますが、もっとおおらかな目でみてあげたほうがよいかもしれませんよ。」

 ローズウッド氏も、今でも色々とアモン家との交流は多く、最近では今婚約中の女性の香りを依頼に父の元を尋ねてきたばかりだった。秋にさしかかって、ようやくコスモスも咲き出したばかりの時期だったが、アモン家を中心に、僕の国では唯ならない空気や匂いで充満していきそうだった。

 ローズウッド氏が受けた報告は、父の死亡の知らせでした。報告書によると、父は協会からの帰宅途中に山羊車とともに深い谷に投げ出されたらしく、明日にも調査隊が遺体の確認にいくとのことでした。ローズウッドはまずその内容を、警察指揮官に伝えたが、指揮官は少し沈黙をしたあとに、部下にすぐさま命令を下して、とりあえず今日の調査はこれで打ち切ると断言した。

 調査官や警察がまず、部屋から一人ずつ出て行って、それから軍隊が一斉に大きな声をあげて、家の外にむかって歩き出した。母は、まだ奥の部屋で休んでいたが、お爺さんと僕はローズウッド氏に呼ばれて、部屋の隅のほうで、まことしやかに今回の調査のお詫びと、父の死亡の報告を受けた。

 「騎手の遺体は、すぐに発見されたようですが、お父様のご遺体はまだのようです。事故との判断が多いのですが、もしかしかたら他殺の可能性も否定出来ません。全く残念で仕方がないです。調査のほうは、私が警察に掛け合って、ずっと後にしていただくようにします。」

 「キモンも、本当は何もやっていないと今でも信じています。あの子を育てたのは、私ですからよくわかります。息子のベチバーもこうやってきちんと成長しています。霧が晴れるまで、祈り続けるしかないです。」

 お爺さんは、何もかも落ち着いていて、まるで10歳以上若返ったのではないかと思うぐらい、気丈夫にそう答えていた。僕はというと、まだまだ頭の中では今回のことがグルグル回っていた。しかし、出来れば父の遺体などは見たくなかった。40代半ばで、命を落とすなど誰が予想をしていただろうか。まだまだ、期待されていたし、僕自身教えてもらわなくてはならないことがたくさんあった。

 しかし、そういったアモン家の悲劇とは別に、協会からは全く異質の伝達書が届いていた。それは、ローズウッド氏が立ち去ったあと、暫くしてから手渡されたのだが、それによると今回の件については、キモン氏のみの行動であるから、アモン家がキモン氏との係わり合いを断つなら、今後も同役職や地位などもすべて認めてよいということだった。

 ガルバナムお爺さんは、それを読むなり激しい表情に一瞬なったが、その後すぐに冷静になって、協会からの使者に、自分の手紙を書き添えて、了解したと答えた。

 
精神世界ランキング
 
にほんブログ村 メンタルヘルスブログ 心理カウンセリングへ
 多くの方が見れるようなクオリティに努力してまいります。 
[PR]
by fenice2 | 2010-02-23 12:38 | 香りの小説

第一章 調香師という家系に生まれて 8 調香について

(この物語は、フィクションですが現実の調香の世界のあり方を元につくられてます。物語の中には、よく似た企業などの名称が出てきますが、あくまで想像の産物であり、現実との関係は読者の判断に委ねてあります。)
f0149554_17305553.jpg


 これを読んでいる方は、調香の世界というものが、よくわからないところもあると思いますので、簡単に説明していきます。世の中に氾濫というか出回っている香りの中で、いわゆる調香をされていない香りというのは殆どないと言っても過言ではありません。

 アロマなど、単品の香料などには自然から抽出したそのままのものがありますが、食品香料から始まって、コスメや入浴剤、洗剤や歯磨きさえも、調香された香料が組み込まれています。それらの多くは、あるパターンのようなもので調香されていますので、一見すると可も無く不可も無くというものにされていますが、果たしてそれが、心や精神的なものにどう影響されるかは、未確認の部分が多いです。

 特にケミカル香料などは、その仕組みがとても複雑で、自然の香りを分析し、それに近い香料に近づけていきますが、その過程で人によって良くないものが出来ている可能性もあるような気がしています。今、この香りの世界の中でも、天然の香料の質が落ちているために、色々なほかのケミカルの香料で補っていこうとしています。

 自然の中の香料、例えばバラでもアセトンやベンジンなど約100種類ほどのケミカルが解明されていると言われていますが、これだけバラに似た香料が出回る中で、未だにオリジナルに忠実な香料を作り出すことはまだまだ、不可能なようです。単価の問題やバラに似たケミカルの香料は、むしろ本物のバラの香料よりも主張することもあって、その解明を進めるよりも、安易にケミカルの香料を使うほうが企業などは求めていきますし、一般の人もその見えない世界に対して、何も主張をしていきません。

 香りや、匂いというのは様々な文化や文明、社会や人の関係を作り出す元になっているような気がしています。折角立派な建物をつくっても、そこに無臭の空間しか無ければ、何も心の休まる空間を作り出すことはないような気がします。竹やヒノキ、桐や杉などそれらの木から放香するものからは、時間を重ねるとともに、深い香りを生活の中で作り出していくことにもなります。

 調香というと難しいようですが、自然は常に様々な匂いや香りを組み合わせて、時には神々しい雰囲気を作り出すこともあります。匂いが合わない木々は、自然にそれらを遠ざけ、落ち葉がおち、それがまた土をつくって深い匂いをつくっていきます。そういう意味では、深い森こそが、様々な匂いや香りが交じり合った調香の極地だと言ってもよいかもしれません。

 調香のセンスとか技術といっても如何にそういった自然の中の匂いを記憶しているかにあるのではないかと思っていますし、主人公の一家もこの事態に再び、自然に戻ってその解決方法を見出していこうとします。

 また、調香に限らないと思いますが、その組み合わせに失敗するとどれだけ良い香料をつかっても、何とも耐え難い香りをつくってしまうこともあります。天然の香料というのは、貴重なものほど、とても繊細で複雑な部分を多くもっていますので、使い方を間違えるとリラックスできるどころか、気持ちや心を深く落ち込ましてしまうものも出きてくることもあります。良い香料さえ使えば、良い香りが出来るというのは、香りの世界にはあまりあてはまりません。

 デーモンの香りというのは、具体的には何か心をむき出しにさせてしまうような香りだと考えています。現代は、心を守るどころか、剥き出しにして生きているような気がしてなりません。香りや匂いがそうさせたとは、言いがたいかもしれませんが、長い時間の中では可能性はあるような気がしています。

 今後のストーリーについては、最初に大まかに説明したとおりで、細かいところは毎日思いついたことを書いていきます。香りが、いかに人の生活や心にかかわっているかを感じていただければ幸いです。


精神世界ランキング
 
にほんブログ村 メンタルヘルスブログ 心理カウンセリングへ
 多くの方が見れるようなクオリティに努力してまいります。 

 
 

 
[PR]
by fenice2 | 2010-02-23 00:16 | 香りの小説

第一章 調香師という家系に生まれて 7

(この物語は、フィクションですが現実の調香の世界のあり方を元につくられてます。物語の中には、よく似た企業などの名称が出てきますが、あくまで想像の産物であり、現実との関係は読者の判断に委ねてあります。)
f0149554_17305553.jpg


 朝から、協会には多くの理事や役員が集められていた。父は、その中ではいまや三案目に権威のある常任理事だが、他に代表理事、代表補佐理事、広報理事など8人の理事と、12人の役員で協会の中枢を担っていました。

 先日話題にした、デーモンになってしまった香りについて話し合うべきはずだったが、広報理事のローズマリーの急遽の提案でそれは退けられることになっていた。議案は、最近の香料の変質に関することになったが、いまやまもとな香料を抽出できるフィールドは殆どなくなってしまっているのが現状だった。

 ローズマリーは、国中の様々な花や木々のフィールドの資料をみせて、どの地域の香料の品質が、どれほど落ちているかを詳しく説明しだした。

 「本日も、朝早くからお集まりいただきありがとうございます。今日の議案は急遽、今の香料の品質の現状と今後のことについてお話したいと思います。ご存知のとおり、ここ10年近くで、様々な農地改良や遺伝子操作をしたにも、かかわらず、良い香料が取れる場所は日に日に減っているのが現状です。一つには、気候変動など外部の要因がありますが、もう一つには、香りを取るべく木々や花々の種が変質しているのではないかと思っております。」

 ローズマリーの説明によると、以前はそれぞれが種から苗をつくっていたそうだが、いまやその殆どが種の組織に任せられていて、そのことが弱った花々をつくる要因になったのではないかということだったが、種の組織を一手に牛耳っているのは、代表の理事のローズそのものだった。

 ローズ・ヘイブンは、70を超えた高齢だが、調香の技術はまだまだ未知の力をもっていて、その弟子の数は、1万とも2万とも言われていました。彼女のレクチャーを受けたいばかりに、街の調香師の中には財産を全てなげうってでも、申し込んでくる人が後を絶たないということだが、モス叔父さんとも親交があったが、彼女はいまや、押しも押されぬ香りの国の女王に違いありませんでした。

 モスお爺さんの書物に最初の翻訳をしたのが、この彼女の父親、ジャスミンだったが、その内容について大変驚き、この財産ともいうべき技法をどうやって国に広めていくかに努力した人だったいってもよいかもしれません。残念ながら、その技法の全てをモスお爺さんが明かすことはなかったのですが、その秘法の半分以上は、このヘイブン家に伝わっていって、それで今の栄華を築いていきました。

 ヘイブン家は、ローズの代で技法の発展だけでなく、香料の抽出についても事業の手を広げていきましたから、その関係でいつの間にか国々の香りの畑というべく、花々や木々のフィールドもほぼ独占していきました。僕の家の香りのフィールドは、まだ自分自身で育ててる部分を持っていましたが、それでもヘイブン家に比べれば、100分の1にも満たない量でした。

 「種は、同じところで栽培し、それを繰り返してくるとどうしてもその生命力と言いましょうか、弱ってくる部分が出てくるようです。先日、倉庫にあった、約100年以上前の花の種を調べたのですが、もっと深い香りが出る可能性を確認しました。いずれにしても、このまま栽培を続けていても、フィールドから取れる香料は、益々品質が悪くなるばかりだと思っています。皆様に一度ご検討いただきたいと思っています。」

 ローズ女史はそういって、みんなの前で最近の説明をした。一説では、彼女があまりにも大量の香料を抽出しようとして、無理なフィールドの運営をやってしまったからだと噂されたこともあったが、それを堂々のこういう話し合いの場所で言うことが出来る人は誰もいなかった。

 僕の父は、今回の件については、それも原因としてあるかもしれないと思っていたけれども、それよりも誰がデーモンの調香をしたのかそればかり気になっていた。それほどアモン家にとって、国々の香りの成り立ちを任せられている立場からしても、これほど屈辱てきなことはなかったからだった。

 地位こそ3番目だが、僕の家に任された仕事は、国全体の安定や平安を維持するだけの香りつくりだった。もっと昔の立場なら、王に仕える神官のような立場であったのかもしれません。さきほど話したモス叔父さんが伝えなかったという半分近くの中には、心や精神を破壊したりなにやら呪術を髣髴させるものもあったので、それで翻訳することは無かったのですが、父は立場上その技法の殆どを知っているのではないかと感じています。

 アモン家は、国の重要な場所、教会、王の宮殿などの香りについては、代々その調香が任されてきました。アモンの香りと、名前こそ恐ろしいイメージがありますが、その調香の内容は、高価な香木の香料を多く使い、深い精神性や落ち着きを感じさせるものでした
 
 アモンの香りは、父が月に二度ほど世の中の動きにあわせて調香していきますが、その調香法と香料を協会に提出して、協会の人間が大量の香りをつくっていきます。今までにも、何度もこの方法でやってきましたし、アモン家の香りが発表される度に、多くの香りの作り手がその影響を受けて自分の香りつくりに応用していきます。

 今回、その香りの一つが変質したということは、何者かが調香方法を変えたか、それとも協会での調香そのものに落ち度があったのかわからないが、いずれにしても一家にとって家門が傷つけられる自体のことに結びつくとも限らなかった。

 それにしても、デーモンの調香をするには、かなりの知識と経験がいるはずだった。

 「あの香料の範囲の中で、あれほどの変化をつくっていくには、秘法を知っていなくては出来ないことだ。今度のことは単なる脅しであるのか、それとも我々に対する挑戦状みたいなものなのか、わからない。」

 父は話し合いの場所でも、ずっとそういうふうに独り言を言いながらデーモンの調香について考えていた。幸い、見回りの人間がすぐに香りの変化に気づいて、中和する香料を加えて破棄したらしが、その場所に僅かに残っていた香りをきいて、父はすぐに只ならない事態が起こっていることに気づいた。

 「香料のそのものの質が落ちて、変質されやすい状態にあることも事実だと思う。モス爺さんは、良い香りにこそ良い技術が身につくといったものだが、今や技術そのものも何処か落ち度があるのかもしれない。もう一度自分のことを見直すとともに、一日も早く良い香料をみつける旅にでなくてはいけない。」

 協会の会議は、結局新しい遺伝子操作のやり方を試すことや、フィールドも肥料そのものを変えるやり方などが検討されたが、どれも決定的なものにはなっていなかった。

 
精神世界ランキング
 
にほんブログ村 メンタルヘルスブログ 心理カウンセリングへ
 多くの方が見れるようなクオリティに努力してまいります。
[PR]
by fenice2 | 2010-02-21 22:37 | 香りの小説

第一章 調香師という家系に生まれて 6

(この物語は、フィクションですが現実の調香の世界のあり方を元につくられてます。物語の中には、よく似た企業などの名称が出てきますが、あくまで想像の産物であり、現実との関係は読者の判断に委ねてあります。)
f0149554_17305553.jpg



 女祈祷師のイリスさんは、父に色々なヒントを与えてくれる人だが、厄介な問題持ってきてしまう人です。

 今、国の法律では一応祈祷の類は法律で規されていますが、貴族や役人の中にはまだまだ熱心なファンも多く、彼女の元には多くの人が訪れてきます。彼女は、そういう人の間では、運を変える人だとか性格を変える人だとか言われていました。

 法律の問題もあって、基本的には相談は無料なんですが、こっそり彼女の口座には沢山のお金が振り込まれることが多く、中でも或る貴族の婦人などは破格のお金を彼女に投資していました。そういうお金が入ると彼女はきまって、高いお酒を買い、少し酔っ払って僕の家に来ました。

 それから、まだ父の名前を明かしていなかったのですが、この国では大体香りの名前をつけることが習慣になっていますが、実は父は調香の仕事をしていながら、そういった名前がついていません。僕などは、生まれたときから聞いていますので、それほど不自然には思っていなかったのですが、学校などでもそれがどういう意味があるのか色々尋ねられては、困惑したものでした。

 父の名前は、キモンと言います。アモンが姓ですから、続けて読むとアモン・キモンというとても響きが妙な感じがする名前です。最近になってやっと、ガルバナムお爺さんからその由来を聞いたのですが、何でも日本から見ると、僕の国は鬼門の方角という良くない場所にあるらしく、それで毒は毒で消すという意味でお爺さんが日本人から聞いて、半ば洒落てつけたと言いますが、父のほうも印象が残るので、子供の頃から気に入ってみたいでした。

 話は、祈祷師のイリスさんに戻しますが、彼女曰く、父の名前がどうしても気に入らないらしく、父と顔を合わす度に改名を促すのですが、父は頑としてそれを受け付けようとしませんでした。

 「この国の名前が、香りの名前をつけるようにした由来は知っているわよね。私たちの国は、過去何度もも滅亡してしまって、謎の祈祷師が呪われた地であるから、芳しい名前で満たすようにと言ったということだけど、それで人の名前どころか、地名、首都の名前まで香りにちなんだものが多いんだけど、それでここ何百年かは、殆ど戦争らしいものは無くなったわ。それもこれも、このお告げのおかげなのよ。それを、もっとも香りに関係する貴方が、自ら逆らって妙な名前をしているのは、とても気のバランスを乱すものだわ。」

 イリスさんは、その名前の通りよくバイオレットの服をきていた。彼女のイメージカラーと言ってもよいかもしれない。若い頃はかなりの美貌だったとうことだが、今でも正面でみても時々ぞくっとさせるような眼差しを感じさせた。

 「何度も言っているとおり、これは僕の父がつけた名前だから仕方がないんだよ。僕もそれにこの名前が気にっているしね。キモン(鬼門)という意味がどういうことなのかよくは分からないけれども、なぜかこの名前はよく覚えられるし、香りの協会でもこの名前で長年通っている。この名前のせいで不自由に感じたことはないし、まして不運になったと思えるようなことは何もないんだよ。」

 目の前にある数百本の香料の瓶をふたを少しあけては香りをきいて、彼女の話を聞いていた。

 「私たちの国は、長年にわたって平和の均衡が守られてきたわ。でも最近、私は妙な胸騒ぎがするの。どうもこの長い平和もそろそろ終わりではないかと。私だけではないわ。多くの国のお偉いさんをみていると、心や気持ちの動揺が激しいもの。貴方も香りをつかっていて、見えない世界を感じることが出来る人だからそれをわかるでしょう。」

 母が入ってきて、彼女にお気に入りのカモミールティーを運んできた。その香りが部屋一杯に広がると、父も少し深呼吸をして心地よさように目を閉じた。

 「僕も変化は感じているよ。しかし、それが戦いや争いのものとは思わない。人の心や気持ちに大きな変化を起こさせているのは、香りをみていてもよくわかる。最近以前は甘く感じていたものが、少し重く感じたり、逆に重く感じていたものが心地よく感じるんだよ。最初は、僕の感覚のズレだと思って、大分休暇をとって香りに接してみたりしたけれども、どうもそれだけではないみたいだね。気候のせいもあって、香りそのものが変化しているんだ。抽出する香料会社でも、南のほうで取れたローズの香料が全く使い物にならないと言っていた。なんとかケミカルで整えてはいるんだけど、どうももう難しいところにきているね。」

 父はカモミールティーに少しだけジンジャーを加えて飲んでいた。甘い感じと少し苦い感じが、また不思議な深みを与えていた。

 「そのことが、人の心に不安や恐怖を植えつけることになるんだわ。この国にとって香りは、まさに心の平安を維持する基となっているものだもの。それだからこそ、調香する人間の人間性や性癖みたいなものまで重要視される時代なのよ。今こそ、貴方はもっと信用をつけるべきよ。この香りの危機だからこそ、貴方は王にもなれるかもしれないわ。」

 少し興奮して、イリスさんは父に向き合っていた。しかし、父のほうは相変わらずそのことを嘲笑しながら、彼女に接していた。

 「僕の家は、悪魔の名前だよ。まず王様はそれだけも無理だな。それに香りをつくっていけなくなることが嫌だな。僕はチマチマしたこの生活に満足している。香りの問題はなんとかしていなくてはならないけど、僕が王になってもそういった問題は解決できないよ。新しい調香法だけでなくて、新しい香料も探し求めていかなくてはならない。しかし、落ち着いた香りをつくることが出来るまでは、確かに際どい時期をこの国も過ごすことになると思う。それだから、イリスさんのような存在が必要なんでしょう?」

 「私には、そんな力はないわ。今でもこうやって持ち上げられていること自体が苦痛でならないときがあるもの。私の相談の大半は、欲望や執着との戦いのではないかと思うときがあるもの。みんな、自分が幸せになりたいし、自分だけの苦しみに関心があるわ。でもどれだけ都合よく変わってみたところで、また元に戻ってしまう。自分と違う人間になって、一時はすごいことをやってみても、それで最近何か残るのかしらと疑問に思うことがあるし、それ以上に私のやっていることは、助けているのか余計に悪くさせているのかも分からなくなるときがあるわ。」

 「僕に祈祷師の悩みのなど聞かせても無意味だろ。ネタにしても雑誌にも売れないよ。そんなことはみんな聞きたがらないし、話したがらない。それよりも自分の運がよくなったことや性格が変わったことばかりを話したがるからな。祈祷師は何時もスーパーマンのような人間でなくてはならないんだよ。」

 すっかり、カモミールティーを飲み干してからイリスさんはなおも、首を横に振って話を続けた。

 「この国では、やはり香りこそが心を支えているものなのよ。いえ、どの国も本当は匂いや香りが大きな影響を与えているに違いないわ。この国は余りにも争いが多かった場所だから、香りの国なんて呼ばれるようになったけれども、ひとたびそのバランスが崩れればすぐにも、乱れた国になってしまうわ。私だけの力では、もうどうにもならないもの。また強力な軍隊や警察が出てこれば、それに反対する多くの人たちと争うことになるわ。ついこの間もその相談になったばかりだわ。一部の地域では、もう香りそのものを疎かにしている人たちも増えているもの。弾薬や火薬の匂い、それに混じって血や肉が焼かれた匂いに満たされとき、人々の心がどう変わっていくのかわかっているでしょう。再び、デーモンが現れて、多くの人の心を支配するようになるわ。それを追い払うためにどれだけ努力したのかは、お爺さんから何度も聞いているでしょう。」

 デーモンという言葉に父は、ことさら敏感に反応した。同じ悪魔の名前でもその二つのものは大きな違いがあった。アモンは、人に色々な知恵や知識をもたらすこともあったが、デーモンはただ破壊と殺戮を好む悪魔に違いなかった。

 「それは十分にわかっているつもりだよ。僕は先日協会の人間たちとそれを監視するアモンの香りを幾つもつくったばかりだった。今だからいうと、そのアモンの一つがデーモンに何時の間にか変わってしまっていた。残念ながら、調香師の中ですでに破壊と殺戮を好むものが出てきたとしか思えないんだよ。このことはもっともトップシークレットだが。」

 デーモンの由来については、曾お爺さんのモスが詳しいが、またそのことには後日に触れていきます。

精神世界ランキング
 
にほんブログ村 メンタルヘルスブログ 心理カウンセリングへ
 多くの方が見れるようなクオリティに努力してまいります。




 
[PR]
by fenice2 | 2010-02-19 17:34 | 香りの小説

第一章 調香師という家系に生まれて 5

(この物語は、フィクションですが現実の調香の世界のあり方を元につくられてます。物語の中には、よく似た企業などの名称が出てきますが、あくまで想像の産物であり、現実との関係は読者の判断に委ねてあります。)
f0149554_17305553.jpg


 父で3代目になるこの仕事も、何もかも最初からすんなりいっていたわけではないです。特に2代目のガルバナムお爺さんは、まだ時々父の仕事場を訪ねてはいろいろなことを話していくようですが、父にとっては嬉しいこともあり、お節介なこともあって複雑な気持ちだそうですが、ガルバナムお爺さんの経験や知識は、20年この仕事をやってきた父にとっても得ることは多そうでした。

 父は、仕事が忙しいせいもあって、弟子は殆ど取りませんが、モスお爺さんも、ガルバナムお爺さんもそれは積極的に弟子を育てる仕事をやったものでした。特にガルバナムお爺さんは、弟子の数だけでも数千人は下らず、今でも街で働いている香りの作り手や、デザイナー、協会の理事にも多くの人が加わっています。

 「香りは、血筋でつくられる。」そういって憚らなかった、ガルバナムお爺さんは、香りを習いに来る人すべてに家柄や両親の生き様などを聞いてまわっていましたから、時には良い家柄の人しか受け入れないと勘違いされたこともありますが、実際はそうではありませんでした。

 「感覚には、深くて長いルーツが続いている。それはとても大切なことなんだよ。単に好きか嫌いかに実は、長い時間の記憶の蓄積が関係しているんだよ。だから、それを知ることが、その人の本当の感覚を見つけることにつながっていくんだ。」

 今でも、父がガルバナムお爺さんに代わって、話すのは或る少女の話だが、突然ふとお爺さんの前に現れた彼女は調香を教えてほしいと言い、そのままお爺さんの元に何ヶ月も居座り続けることになったのだがそれには彼女の驚くべき才能が深く関係していました。

 「香りには、それぞれ声があるわ。大きな声を出すもの、小さな声や澄んだ声、濁った声などいろいろあるけど、ちゃんと指揮者を立てて、歌を歌わせてあげたらとても感動的になるもの。」

 香りを音で認識するということも変わっていたが、もっと変わっているのは彼女は、自分の香りの出来があまりよくなくても、何か不思議な歌を歌ってその香りを芳しいものに変化させてしまうことでした。

 「調香としては、何の経験も知識がないからチャート(レシピ)はうまくできないのは仕方がないにしても、何故こんなに予想が狂ってしまうんだろう。まったくわからない。」

 彼女の名前は、マージョラムと言ったが、そういった才能も変わっていたが、ともかく同じ弟子同士でも交流もほとほと苦手なことらしく、しばしば諍いを起こしては、甲高い声をあげて回りに顰蹙をかっていました。あまり長く彼女の声をきいていると、時にはは鼻血や鼓膜が切れてしまうこともあり、ガルバナムお爺さんも彼女の扱いには困っていたようでした。

 それで肝心の調香の勉強のほうはというと、或る程度の知識までは興味をもって覚えるのだが、それ以上はなかなか頭にいれようとしなかったようです。相変わらず、少しぐらい出来が悪い香りをつくっても、例の不思議な声をきかせて、香りを人工的に化学反応を起こさせているようでした。

 そんな彼女もある時期を機会にふとお爺さんの前から姿を消してしまったのですが、それからしばらくして彼女がなにやら新興宗教みたいな教祖になっているとの噂を聞くようになっていました。マジョーラムはその天性の声から、多くの人の心や気持ちを変化させ、自分のとりこにしているようでした。

 多くの弟子たちが、彼女のそういった動向に驚きの目を持って接しているときでも、ガルバナムお爺さんだけは、随分落ちついた感じであったそうです。ついには、彼女は国全体を敵にして、まったく別の国をつくろうとしているときも、お爺さんは家族のみんなにもこういうことを言ったそうです。

 「マージョラムは、自分のルーツを否定する子だったんだ。だからあんな不思議なことが出来たんだが、暫くすると何もかも元に戻ってしまうんだよ。私は、彼女の香りをずっと見続けてきたが、その時は驚くような変化をしたように見えるのだけれども、実はそうではないんだよ。」

 お爺さんは、宙を見つめながらなおも話を続けた。

 「彼女は、香りを変化させたように見える、私も最初はそう思ったもんだ。しかし、違う、全然違うんだ。彼女は例の声で、人の感覚を狂わせてしまうんだよ。香りは実は何もかわっていない。何も変わっていなかったんだよ。」

 人の感覚を変化させる力をもマージョラムにとって、感性を育てたり、 調香の技術を磨くことはあまり意味のないことだったのかもしれないと、お爺さんは付け加えた。

 「人間の感覚なんていうものは、本当に脆くて弱いものだよ。香りをつくっても朝に傑作だと思っても、夕方にはまた新しいものがほしくなってしまう。心のなかの世界や欲望、執着で感覚なんていうものはいくらでも変わってしまう。だから私は、ルーツが必要だとみんなに言ってきたんだよ。」

 彼女の元には、何万という人が集まりついには、警察や軍隊とも衝突して、多くの死傷者を出して、何ヶ月も大きな洞窟の中に立てこもったはてに、マージョラムとその一味は全員捕獲された。

 「彼女は、そういう人生だったかたこそ、違った人生を歩もうとお爺さんのところに勉強にきたんだわ。でもここでも人の感覚の弱さを目の辺りにした。希望もしたけど、絶望もしてここでの生活をすごしていたのかもしれないわ。」

 母は、彼女が処刑される最期までずっと同情的であるようでした。

 「人が人によって変えられようとする、このこと自体は良いも悪いもないんだろう。でもしっかりした鏡みたいなものがなければ、自分がどう変わったのか見る術がないんだよ。僕にとって、香りは魔法の道具というよりも、まずは自分を映すものでよいと思う。」

 父がそういうのを、お爺さんはただ黙ってうなずいて聞いているようでした。

 「マージョラムは良い香りの作り手になれたんだ。今頃になって同じ弟子の時代を過ぎしてきた人間だちが言うんだ。彼女をオカシクしてしまったのも、また人や人が作り出したものかもしれんな。」

 ガルバナムお爺さんはそういうと、部屋の高い位置にあるモスお爺さんの写真を眺めていた。


精神世界ランキング
 
にほんブログ村 メンタルヘルスブログ 心理カウンセリングへ
 多くの方が見れるようなクオリティに努力してまいります。




 
 

 
[PR]
by fenice2 | 2010-02-18 00:49 | 香りの小説

第一章 調香師という家系に生まれて 4

(この物語は、フィクションですが現実の調香の世界のあり方を元につくられてます。物語の中には、よく似た企業などの名称が出てきますが、あくまで想像の産物であり、現実との関係は読者の判断に委ねてあります。)
f0149554_17305553.jpg


 香りは、とても小さな存在で、僕は本当は人にもっとも優しい存在ではないかと思ったりします。少し触れるだけで好きか嫌いかに分けられてしまいますし、確かに良い香りは人の足をとめて、そこにふと立ち止まらす影響を与えますが、人生をそのものを変える力は何もないのではと考えています。

 しかし、香りは本来そういうものでも、人間のほうはそうはいきません。父には、色々な相談を持ちかける人がいて、好きな人を振り向かすことが出来る香りをつくって欲しいなどというのは、まだ可愛いほうですが、自分をナポレオンのように自信を持つことが出来るものが欲しいとか、お金をもうけることが出来る能力が育つ香りだとか、色々無理難題をふっかけては、通い続ける人もいます。

 実業家のバジルさんもその類でした。彼は、今までにも色々な仕事を手なずけて成功させてきましたが、それでもまだまだ飽き足らない様子でした。

 「アモンさんのつくる香りは本当に素晴らしい。ついては私と、世界を征服できるような香りを一緒につくってみないか。」

 バジルさんも、実は色々な分野の研究家で街では博士と呼ばれるようなこともあったのですが、香りの調香だけはどうしても理解できないところがあるらしく、その日も父にその技法について質問攻めにしながら、自分の野心をひけらかしていました。

 「アモンさんのつくる香りは、人の心を変える力を持っているようだね。自分でそのことを気付いていないのかい。」

 バジルさんは、白髪交じりのあごひげをさすりながら、そう父にたずねていました。父は、少しそれを斜めにみながら、笑みを浮かべて聞いていました。

 「街の香りの作り手は、沢山のパターンを覚えていてそれを繰り返しているだけだから、飽きるんですよ。私のは、その人の心に映る香りを見つけ出して、その暗いところがあれば、少しでも明るくしてみようと思って香りを組んでいるだけなんですが、それが出来るかどうかだけで、そんなに大層なことはしているとは、思っていないですよ。」

 母が昨日摘んできたブルーベリーの実がテーブルの上には沢山ありました。鼻だけでなく、目も疲れることもある父は、それをまるで器用にさも逆回転の映像を見ているように、口に放り込んでいました。

 「しかし、結果的に心を変えることになるだろう。私は、公認の調香師が20人ほどいると言っているが、アモンさんは、そういう人とも全く違うとも思う。やはり曾お爺さんからの何か秘密で違うんだろうか。だったらその秘密をぜひとも知りたいものだなあ。」

 調香の秘密について、僕も何度も父に尋ねたことがあった。やはりモスお爺さんが持ってきたという本を読めば僕もすぐに仕事が始められるかもしれない。それは、そのときにも強く思っていました。

 「感じる力が最も大切なんです。秘伝なんて何にもありませんよ。誰でも感動させて痺れさせてしまう香りなんて、こういう仕事をやっていると一度は夢を見るものですが、やはり幻なんだということがわかってきますよ。問題は、その人が感動させる香りが、全然知らない他人がそれを聞いて、果たしてどうなるかには興味があります。というか、僕の仕事の最低限の仕事は、その人の満足のいくものをつくって、尚且つ他人の迷惑にならないものにしなくていけないということです。そこには確かに技術がありますよ。」

 父は、真顔でそう答えていたが、僕にはよく分らないところもあった。ただいえることは、父はあまり野心みたいなものは持っていないことだった。しかし、僕はもっと広めることが大切ではないかなあと思ってみたことはありました。

 「迷惑にならないどころか、多くの人も感動させるという評判だぞ。現に私の香りも、どこぞでつくってきたものよりも、余程私自身気に入っているし、妻や娘にも評判が良い。」

 バジルさんは、とても人をほめるのが上手いらしい。しかし、それはどうかするとお世辞という雰囲気も醸し出しているとよく母は言っていた。

 「それは、ありがとうございます。しかし、それはお身内の方がいろいろ気遣われて仰ったのかもしれませんね。万人の人に満足していく香りをつくるよりも、やはり私は個人の方に満足するものから出発するしかないと思います。」

 「惜しいなあ、それだけの腕があれば、世の中で手に入らないものはなかろうに。」

 「それこそ、幻想ですね。家のものたちにも未だに、何をやっているのか理解されずに生きていますよ。」

 応接室で、二人で話す様子を聞いて、やっと最近大人の世界が少し見えてきた僕にとって、確かに父の生き方はよく理解できない中途半端なものにも感じないわけではなかった。香りは、父の言うとおり単なる心を映し出すものかもしれない。けれども、父の力は、他の人よりもずっとあるはずだと思う。

 それは技術なのか、もっと目に見えない精神的な力なのかもしれない。でも何だっていい。こうやって、片田舎で大人しくやっているよりは、ずっともっと父のことを理解してくれて、もっと王様のような扱いをしてくれる人もいるはずだと思う。

 そう、先日話した日本などは、もっとこういう部分が理解できる人が多いのかもしれない。神の国というぐらいだから、きっとすごい能力を持っているに違いない。僕は、いつかその国にいって、父の仕事をみせてあげようと決意しました。

精神世界ランキング
 
にほんブログ村 メンタルヘルスブログ 心理カウンセリングへ
 多くの方が見れるようなクオリティに努力してまいります。
[PR]
by fenice2 | 2010-02-16 21:09 | 香りの小説

幻想小悦 「香りの夢物語」第一章 調香師という家系に生まれて 3

(この物語は、フィクションですが現実の調香の世界のあり方を元につくられてます。物語の中には、よく似た企業などの名称が出てきますが、あくまで想像の産物であり、現実との関係は読者の判断に委ねてあります。)
f0149554_17305553.jpg


 良い香りのお手本は、何時も自然の中にあると父はよく言っていたので、どれだけ仕事が忙しくなっても、自然の多い今の場所から、引っ越すようなことはありませんでした。よく、それだけ多い香料の中で気持ち悪くならないなあ、なんて友達から言われたりしましたが、慣れているのか父が服に色々な香料がついていて、一緒に食事をしても平気でした。

 「街の人は、無臭の中で食べてのに慣れているから、僕のようなものがレストランに入っただけであまりよく言われないよ。」何かの打ち合わせで、父は時々は街に下りていきますが、そこで何時も香りがするというだけで、周りから違った目で見られたりするそうでした。

 でも、街の殆どの人も香水は身に着けているはずなんですが、それは許すことが出来ても、父の服についている香料は何故か敏感になるようでした。

 「僕の服についているのは、ゼラニウムやカモミール、ローズなどほとんど自然にあるものなのに何故かよく思われないようだな。」

 山の景色のよいところに行って、綺麗な空気の中で食事をすることは気持ちがよいものです。この空気と、匂い、香りさえあれば、サンドイッチ一つだけで満足が出来る、それだけ自然の匂いはご馳走なのかもしれない、僕自身も子供のころからそう思っていました。

 勿論、街の有名なレストランで食べるのも楽しみの一つだけども、美味しいんだけどどうも、そういった美味しさとは違う。大人がかしこまって緊張しているせいもあるのだけど、こういったものを大人になればきっと美味しいと感じるのかもと思っていたのですが、どうも今現在でもそういう気持ちにはなってこないです。

 掃除の行き届いた部屋の中で、白いレースが置かれたテーブルに豪華なお皿がとても綺麗なんですが、この空気を食べるという感動とは全く違うような気がしていました。

 父は、過去に一度ヨモギの匂いがするからと言って、入店を断られてから、星が幾つも並んでいるお店にはいかず、下町のもうもう煙がする店に入って食べることが多くなったようです。そこでは、何故か父の服の匂いのことには触れず、父も不愉快な思いをせずに帰ってくることが出来たようです。

 僕が思うに、たぶんそういった匂いのしないレストランは、山の中にもってきても誰も美味しいと思わなくなるのではと想像したりします。食べるということは、本当はもっと回りに色々なにおいや香りがあって、勿論臭い匂いは極力ないほうがよいけど、それでも全く匂いがない冷たい感じのレストランよりもずっとましなのかもしれないと思ったりしました。

 そうやって考えると、貴族の人たちや王様でもあまり良い生活をしていないのではと思ったりします。イエス様は、人はパンのみを食べるにあらずといったけれども本当は、こういうような意味もあったんだろうと、僕は勝手な想像をしたりしました。

 そういう訳で、僕の家は何時も良い思いをしているわけではなくて、そういうものにふれているうちに、普通の人が体験できない色々なことをしていくのですが、それも目に見えない世界に触れているからなのかもしれません。

 随分、前には魔女とか呼ばれている人たちがこういう調香をやっていたらしいのですが、父の書棚にもそういう類の本は沢山あるようです。香りをつくることは魔法ではないのですが、良い香りが出来るとみんなとても満足して帰っていくので、もしかしたら父はあまり言わないだけで、そういった不思議なことも体験しているのかもしれません。

 そういう理由で、僕のうちは裕福なのに、そういう豪華なレストランにも出向かないと噂がたったことがあるので、仲の良い友達だけは説明しましたけれども、この村に住んでいる人たちは余程変人かケチのように思っているみたいですが、それは仕方がないのかなと思ったりします。

 自然の匂いに敏感な母は、天気にあわせて食事をつくってりします。例えば、ずっと暑い日が続く日は辛いものよりも酸っぱいものを多く作りますし、雨が降ったりしたときは、必ずスープの料理が出てきます。そうやって天気と一緒に献立出来てくると、なんだか雨だから憂鬱とか、晴れている日は確かにうきうきしてくるけど、だけどゆっくりしようとか、とても穏やかな気持ちになるので不思議です。

 僕たちは、ご飯を食べているときはやっぱり何か本当はもっと大きなものを食べていかないと、体の栄養になっても、心の栄養になっていかないんではないかなと思ったりします。

 空気にもきっと、色々な栄養があって、それが自然が風にのせて運んできてくれるのかもしれません。香りに親しくなったらもっと空気と仲良くなれるのなあと考えていますが、そんなことを考えている子供は街の子供たち中には誰もいないのかもしれません。

精神世界ランキング
 
にほんブログ村 メンタルヘルスブログ 心理カウンセリングへ
 多くの方が見れるようなクオリティに努力してまいります。
[PR]
by fenice2 | 2010-02-15 14:02 | 香りの小説

幻想小悦 「香りの夢物語」第一章 調香師という家系に生まれて 2

(この物語は、フィクションですが現実の調香の世界のあり方を元につくられてます。物語の中には、よく似た企業などの名称が出てきますが、あくまで想像の産物であり、現実との関係は読者の判断に委ねてあります。)
f0149554_17305553.jpg


 香りというものが、精神や心と何か結びついていることは、そういうような環境で育っていったのでなんとなくわかっていました。父は、香りを作るときにとても長い時間、お客さんと話し込んでいましたし、時にはまるで占いや人生相談のような形をとることもありました。

 モスお爺さんが、中東から貰ってきたという謎のパピルスには、調香と心の関係が詳しく書かれていたということですが、子供の頃からそれらしい本があることはわかっていましたが、僕自身一度も見たことはありませんでした。

 もっと昔には、一度それを盗もうとして泥棒が入ったようですが、それ以来家族をも知らない場所にそれが隠してあるのではと、僕は時々想像したりしています。

 「単に混ぜるだけでなら、誰でも少しやればわかってくるよ。でも、それがどう心や精神に影響してくるかがわからないと何もならない。」

 父は、時々最近街に出来たあちこちの調香の店を例えてはそう話していました。昔と違って、香料は手に入りやすくなりましたし、手軽で安い香水は庶民の町では、まだまだ人気があるようです。

 父は、また香りと夢については、ひときわこだわって話しているようでした。新しく香りをつくった人には、必ずその日の夜に何の夢を見たかを電話や手紙でたずねていました。その夢の内容によっては、次に入れる香料を変えるようでした。

 僕も小さい時に何日か悪夢を見たときに、父が何故かそれに気付いて、部屋にある香りを振りまいてくれました。それから良い夢を見るようになったとは言いませんが、なんだか苦しい夢は無くなったような気がしています。

 父と母の関係を話すのは、少し恥ずかしいのですが、お互い個性もあり、お世辞にも喧嘩もしないとは言いませんが、不思議な関係で結ばれていると感じるのは事実です。母は、時間があるとここからかなり山深い森に水浴びをしに行きますが、そこで運がよければ妖精を見ることが出来るとよく話しています。

 技術者の父と違って、母はどちらかというと夢想家でロマンチストです。家庭でも、見たこともない綺麗な花を摘んできては、父や僕を喜ばしたりしていました。

 母と父が結ばれたことについては、これもまた謎なことが多く、舞台女優で早くから有名であった母は多くの貴族が求愛をしていましたが、同時に華やかな生活に嫌気をさしていました。小学校で歌があまりにも上手かったために仕方がなく、舞台の学校に行きましたがそれから母、アカシアスは有名になることを望んではいないようでした。

 母の両親は、どちらも小さな農場を営んでいて、今でも遊びにいくとザル一杯のイチゴやブルーベリーを摘んできてくれたりします。決して裕福ではありませんが、そうかといって家庭に笑顔が絶えない家であったようです。

 母のお母さん、ミモザお婆さんも僕が子供のときに妖精の話をよく聞かせてくれました。妖精は、神様の使いの中でももっとも世話好きで、もっとも人に近づいていく存在であるとのことでした。でも時々僕は、そんな心優しいミモザお婆さんに意地悪な質問をしてみました。

 「悪魔がきたら、妖精はどうなってしまうの?」

 そういうと、お婆さんは少しだけ困った顔をしてきまってこういうのでした。

 「悪魔と妖精は本当は、仲の良い友達なんだよ。人が見えている前だけは避けているけど、悪魔になってしまう妖精もいれば、良いことをして妖精になったゴブリンもいるんだよ。」

 この答えは、少しだけ最初は混乱しましたが、僕自身の不安な気持ちを安心させました。僕のような悪魔を何度も見てしまうような子供は、妖精から嫌われてしまうのではとずっと思っていたので、これで何時かは僕も妖精を見ることが出来ると思うと、それだけで嬉しくなったりしました。

 僕が、初めて妖精を見た話は、また後日話しますが、感動して夜も眠れないほどでしたが、同時に僕は何故か悪魔が可愛そうになったりしました。ミモザお婆さんは、どちらも同じところから生まれてきたように言っていましたが、人間だってとても裕福で地位が高いところに生まれた人もいれば、未だに地下牢に閉じ込められて働かされている人間もいるといいます。

 僕の国では、だいぶそういった奴隷のような扱いは少なくなったのですが、それは何でも遠い日本という国の使者が来るまでは、日常で犬猫を飼うように、家の前には鎖で繋がれた人がどこの家庭にもいるものでした。神父様は、その奴隷の人たちについて、穢れているからあまり近づかないようにと言っていましたが、母などは本当は、神様はそんな残酷なことを許すはずがないとも言っていました。

 それにしても、日本というのは噂では神国と呼ばれていて、誰でも神の声を聞くことができるとのことでした。

 父は、以前何度か日本人と会ったそうで、その感覚の鋭さに度肝を抜かれたということでしたが、今でも憧れのような印象を持っているようでした。

 日本は、世界中でもっと精神性が発達した国で、人口は僅かしかしないようだけれども、殆どの人が超能力のようなものを持っていて、沢山の神様と話す場所を持っているとのことですが、僕は会ったことがないのでよくわかりません。でも、以前僕があることに気付くと先生が君は日本人のようだと言ってくれたので、多分日本人というのは何でも見えてしまう能力を持った人たちなんだなと思ったりしました。

精神世界ランキング
 
にほんブログ村 メンタルヘルスブログ 心理カウンセリングへ
 多くの方が見れるようなクオリティに努力してまいります。
 

 
[PR]
by fenice2 | 2010-02-14 13:23 | 香りの小説

幻想小悦 「香りの夢物語」第一章 調香師という家系に生まれて

(この物語は、フィクションですが現実の調香の世界のあり方を元につくられてます。物語の中には、よく似た企業などの名称が出てきますが、あくまで想像の産物であり、現実との関係は読者の判断に委ねてあります。)
f0149554_17305553.jpg



 僕(アモン・ベチバー)が、生まれたのは森が近くにあって、自然の豊かな場所でしたが、それ以上に毎日、部屋の中には芳しい香りがたちこめているのが特徴的でした。

 母(アモン・アカシアス)は、あまり父の仕事に接することはありませんでしたが、子供の頃から抱っこされると、なんとも言えない甘い香りが漂ってきたりするものでした。それが、ずっと後になって父(アモン・クローブ)が作った香りだったということがわかってからは、少し残念であったことと、ちょっと嬉しかった気持ちが半々でした。

 小さな頃は、自分の家(アモン家)がそれほど裕福であると感じることはありませんでしたが、小学校に通いはじめる頃から、色々な人に羨ましいと思われることも多く、服や靴もかなり上質なものを身に着けているようでした。

 父の家業は、ずっと前に曾お爺さん(アモン・モス)から引き継いでいるものと聞いていましたが、詳しいことはあまりよくわからないのですが、何でもお爺さんが、中東に戦争で出向いて行った時に、古めかしい本を貰ってきたということでした。

 それは、古いヘブライ文字でしたがそこには色々な化学式のようなものが書かれていて、中でも調香と錬金についてはかなり詳しく書いてあるようでした。

 軍隊を退役して、十分過ぎるほどの慰労金をもらったモス爺さんは、趣味の傍らでそのヘブライ語を少しづつ訳し、近所から薬草や花々をつんでは、なにやらつくっていたようでした。

 流石に、父の時代では殆どの香料の抽出は、街の大きな工場でやってしまいますが、それでも出来の悪いものがあると丁寧にろ過装置に通して、自分で満足がいくまで、澄んだ香料をつくっているようでした。曾おじさんは、それほど商才に長けている人ではありませんでしたが、噂が噂を呼び、気づくと毎日誰かの化粧水や香水をつくっては、生計を立てるようなっていました。

 今では、僕の国では調香師は殆どが、家業を継いだ人ばかりなので、新しくその仕事をする人は、余程政府にコネでもない限りは、参加していくのは難しい世界になっています。街では、沢山の調香師がいますが、政府公認と看板をあげることが出来る人は、ごく僅かで父のようにこういった田舎にいても、家業が成り立っているのは、代々その看板もあるせいだと、よく父が酔うと話すので、そういうふうに理解していました。

 父の仕事部屋というのは、家全体の中ではもっとも大きく占めるものになっていましたが、その殆どの部分を今現在まで見ることはありません。部屋は奥に三つあるのですが、奥の部屋は地下にある小さな工場につながっていて、母もあまりその中の様子を話すことはありませんでした。

 モスお爺さんが貰ってきた古い本には、家族の中ではクレオパトラの時代の秘法があるとのことでしたが、古代で多くの権力をもった王室には、そういった調香の技法を編み出した神官がいたそうですが、その殆どは悪魔から伝えられたと僕自身は、お爺さん(アモン・ガルバナム)から聞きました。

 僕の家の名前がアモン(悪魔)とも少しは関係しているのかもしれませんが、デーモンよりはましだろうとよくわかったような、わからないようなことを言うお爺さんでしたが、僕は子供の頃から夢や幻覚で悪魔をみてきましたので、なんだか他の人が恐れて毛嫌いするような存在にはなっていませんでした。

 教会に行って、初めて悪魔と天使の存在を知ったときは、少し怖い存在にも思えましたが、その教会の至る所で悪魔を感じたのは、なんとも皮肉なものでした。この世の人が多く集まる場所、憧れの場所には、必ず悪魔が支配しているものだと考えるようになりました。

 デパートや、貴族が集まるサロン、最も高価なものを売る宝石店にも店先に必ず、小さな悪魔や大きな悪魔がいました。それらは、目の前に通る人によく誘惑したり、のりうつったりしながら大金をその店店に落としていっていました。

 成功した実業家の殆どは、悪魔崇拝者だと父はよく言っていましたが、教会に通う傍らで、彼らはせっせと悪魔に対する感謝の気持ちと服従心を培っていました。神父の懺悔室はそういった人たちの願いや希望でごったがえしていました。

 「天使は、見えるところにはいないよ。見えるところにいる摩訶不思議な存在は、殆ど悪魔だと言っても良いよ。」父はよくそうやって、子供時代の僕に話しましたが、それをはっきりわかるまでには、もう少し年齢を重ねなければなりませんでした。

精神世界ランキング
 
にほんブログ村 メンタルヘルスブログ 心理カウンセリングへ
 多くの方が見れるようなクオリティに努力してまいります。


 

 

 

 
[PR]
by fenice2 | 2010-02-13 20:33 | 香りの小説