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第一章 調香師という家系に生まれて 7

(この物語は、フィクションですが現実の調香の世界のあり方を元につくられてます。物語の中には、よく似た企業などの名称が出てきますが、あくまで想像の産物であり、現実との関係は読者の判断に委ねてあります。)
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 朝から、協会には多くの理事や役員が集められていた。父は、その中ではいまや三案目に権威のある常任理事だが、他に代表理事、代表補佐理事、広報理事など8人の理事と、12人の役員で協会の中枢を担っていました。

 先日話題にした、デーモンになってしまった香りについて話し合うべきはずだったが、広報理事のローズマリーの急遽の提案でそれは退けられることになっていた。議案は、最近の香料の変質に関することになったが、いまやまもとな香料を抽出できるフィールドは殆どなくなってしまっているのが現状だった。

 ローズマリーは、国中の様々な花や木々のフィールドの資料をみせて、どの地域の香料の品質が、どれほど落ちているかを詳しく説明しだした。

 「本日も、朝早くからお集まりいただきありがとうございます。今日の議案は急遽、今の香料の品質の現状と今後のことについてお話したいと思います。ご存知のとおり、ここ10年近くで、様々な農地改良や遺伝子操作をしたにも、かかわらず、良い香料が取れる場所は日に日に減っているのが現状です。一つには、気候変動など外部の要因がありますが、もう一つには、香りを取るべく木々や花々の種が変質しているのではないかと思っております。」

 ローズマリーの説明によると、以前はそれぞれが種から苗をつくっていたそうだが、いまやその殆どが種の組織に任せられていて、そのことが弱った花々をつくる要因になったのではないかということだったが、種の組織を一手に牛耳っているのは、代表の理事のローズそのものだった。

 ローズ・ヘイブンは、70を超えた高齢だが、調香の技術はまだまだ未知の力をもっていて、その弟子の数は、1万とも2万とも言われていました。彼女のレクチャーを受けたいばかりに、街の調香師の中には財産を全てなげうってでも、申し込んでくる人が後を絶たないということだが、モス叔父さんとも親交があったが、彼女はいまや、押しも押されぬ香りの国の女王に違いありませんでした。

 モスお爺さんの書物に最初の翻訳をしたのが、この彼女の父親、ジャスミンだったが、その内容について大変驚き、この財産ともいうべき技法をどうやって国に広めていくかに努力した人だったいってもよいかもしれません。残念ながら、その技法の全てをモスお爺さんが明かすことはなかったのですが、その秘法の半分以上は、このヘイブン家に伝わっていって、それで今の栄華を築いていきました。

 ヘイブン家は、ローズの代で技法の発展だけでなく、香料の抽出についても事業の手を広げていきましたから、その関係でいつの間にか国々の香りの畑というべく、花々や木々のフィールドもほぼ独占していきました。僕の家の香りのフィールドは、まだ自分自身で育ててる部分を持っていましたが、それでもヘイブン家に比べれば、100分の1にも満たない量でした。

 「種は、同じところで栽培し、それを繰り返してくるとどうしてもその生命力と言いましょうか、弱ってくる部分が出てくるようです。先日、倉庫にあった、約100年以上前の花の種を調べたのですが、もっと深い香りが出る可能性を確認しました。いずれにしても、このまま栽培を続けていても、フィールドから取れる香料は、益々品質が悪くなるばかりだと思っています。皆様に一度ご検討いただきたいと思っています。」

 ローズ女史はそういって、みんなの前で最近の説明をした。一説では、彼女があまりにも大量の香料を抽出しようとして、無理なフィールドの運営をやってしまったからだと噂されたこともあったが、それを堂々のこういう話し合いの場所で言うことが出来る人は誰もいなかった。

 僕の父は、今回の件については、それも原因としてあるかもしれないと思っていたけれども、それよりも誰がデーモンの調香をしたのかそればかり気になっていた。それほどアモン家にとって、国々の香りの成り立ちを任せられている立場からしても、これほど屈辱てきなことはなかったからだった。

 地位こそ3番目だが、僕の家に任された仕事は、国全体の安定や平安を維持するだけの香りつくりだった。もっと昔の立場なら、王に仕える神官のような立場であったのかもしれません。さきほど話したモス叔父さんが伝えなかったという半分近くの中には、心や精神を破壊したりなにやら呪術を髣髴させるものもあったので、それで翻訳することは無かったのですが、父は立場上その技法の殆どを知っているのではないかと感じています。

 アモン家は、国の重要な場所、教会、王の宮殿などの香りについては、代々その調香が任されてきました。アモンの香りと、名前こそ恐ろしいイメージがありますが、その調香の内容は、高価な香木の香料を多く使い、深い精神性や落ち着きを感じさせるものでした
 
 アモンの香りは、父が月に二度ほど世の中の動きにあわせて調香していきますが、その調香法と香料を協会に提出して、協会の人間が大量の香りをつくっていきます。今までにも、何度もこの方法でやってきましたし、アモン家の香りが発表される度に、多くの香りの作り手がその影響を受けて自分の香りつくりに応用していきます。

 今回、その香りの一つが変質したということは、何者かが調香方法を変えたか、それとも協会での調香そのものに落ち度があったのかわからないが、いずれにしても一家にとって家門が傷つけられる自体のことに結びつくとも限らなかった。

 それにしても、デーモンの調香をするには、かなりの知識と経験がいるはずだった。

 「あの香料の範囲の中で、あれほどの変化をつくっていくには、秘法を知っていなくては出来ないことだ。今度のことは単なる脅しであるのか、それとも我々に対する挑戦状みたいなものなのか、わからない。」

 父は話し合いの場所でも、ずっとそういうふうに独り言を言いながらデーモンの調香について考えていた。幸い、見回りの人間がすぐに香りの変化に気づいて、中和する香料を加えて破棄したらしが、その場所に僅かに残っていた香りをきいて、父はすぐに只ならない事態が起こっていることに気づいた。

 「香料のそのものの質が落ちて、変質されやすい状態にあることも事実だと思う。モス爺さんは、良い香りにこそ良い技術が身につくといったものだが、今や技術そのものも何処か落ち度があるのかもしれない。もう一度自分のことを見直すとともに、一日も早く良い香料をみつける旅にでなくてはいけない。」

 協会の会議は、結局新しい遺伝子操作のやり方を試すことや、フィールドも肥料そのものを変えるやり方などが検討されたが、どれも決定的なものにはなっていなかった。

 
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by fenice2 | 2010-02-21 22:37 | 香りの小説
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