(この物語は、フィクションですが現実の調香の世界のあり方を元につくられてます。物語の中には、よく似た企業などの名称が出てきますが、あくまで想像の産物であり、現実との関係は読者の判断に委ねてあります。)
王が玉座の間で、協会の人間と話し合ったことは、瞬く間に次の新聞で取り上げられた。街の中では、あちこちでその話題の話で持ちきりだったが、人々の反応は様々なものがあった。アモン家には、朝から多くの人が集まっていたが、数々の不幸があったものの、それらの人たちは新しい希望に燃えているようだった。 実業家のバジルさんは、甲高く今回のことは何よりもチャンスであるということをベチバーに力説した。 「今までアモン家は、技術でその名声を支えてきたが、これで新たな香料のルートも確保出来るということだ。これほどめでたいことはないだろう。」 バジル氏は、朝から相当酔っているようだった。ついでにガルバナムお爺さんもかなりお酒が入っているようだった。酔った勢いというわけではないが、お爺さんは皆の前でアモン家の新しい当主の紹介と、その名前を披露した。 「アモン・スサノウが新しい当主の名前だ。みんなでこれから覚えてください。彼は、ここ数ヶ月でアモン家の秘術のあらゆるものを学んでいきました。そんな短期間でと思われる方もいるかもしれませんが、その土台は、生まれてからずっと作り続けてきたものです。イリスさんなんかも、私の息子のキモンの変化もよく知っているでしょう。」 祈祷師のイリスさんは、このところずっと山深い祠に入り込んで、国全体の祈りを朝晩続けていた。 「教会の連中の悪口を言いたくはないが、あれらがどれほど祈ったところで神様なんかには届きゃしないよ。教会は、もうずっと前からこの国では権威であるし、何をしなくたってたくさんの人が教会を訪れてくれるから、それを維持するだけよいんだよ。教会のある香りが少しでも切れてしまったら、今更あんなに暗いところなんか誰もいくもんかい。」 教会の神父は、その殆どがずっと南の国からきた人間で占められていた。それぞれが黒い帽子をかぶり、その顔つきも同じようなものが多かった。教会は、ずっと前からこの国にはあるけれども、皮肉なことに国が乱れていたときにその多くが立てられて、平和になった今はむしろそこに集められた王の良質な香りをききにくるのがほとんどだった。 「一体、教会っていうのは何の意味があるんだい。今や悪魔祓いさえやろうとしないんだよ。人の心が本当に困るのは、鬼とか悪魔が心の中に元々すんでいるからだよ。でも彼らときたらどうだい。心の中には神がいるからそれを大切にしなさい、ばかりだろう。その元の国が今、たくさんの軍人を集めていることを知っているかい。私は、この間旅の商人に聞いたんだい。」 イリスさんは興奮してそういったが、そこに来ている人たちは今更何を言い出すのかというふうな呆れ顔の人が多かった。 「教会は、人の心をつくっていると言っている。それはわしも間違っていると思う。人は苦しくなり、目先がみえなくなるとどうしても神にすがる。そして、平和になると今度は、欲や願望のために彼らは神を利用しているんだよ。過去の多くの慰霊のために教会を訪れるならよいが、最近はそうでもない人間も多いようで悲しいことだな。」 ガルバナムお爺さんも、百年前の乱れた時代のことをモスお爺さんから詳しく聞いているらしく、時々は教会に行くことがあったが、それは街中の人たちの教会もうでとはかなり意味合いが違っていたらしい。また教会のほうでも、色々な儀式をつくって、そういった人々の願望や欲を満たすことでやっきになっていた。 「教会は、普通のお金儲けとは少し違うんだろ。やつらは、最後は人の心をコントロールすることを目的にしているとしか思えんな。でもこの国は、香りの力が王を初め、いたるところで行き届いているから、それが達成できないでくやしいのかもしれんな。」 バジルさんは、教会が集まっている元の国を知っているらしく、何でもそこには世界中の国々からの情報や物資が集まっているらしく、しばしば僕の国についてもよく話題になっているらしい。 「争いのない国なんて、世界のどこでもそうはないんだよ。彼らは争いがあるからこそ自分たちの意味があると思っている。人は生きている限り、欲や執着に満たされ、醜い生き方をするのは仕方がないと考えているんだな。そのあたりは、我々の国の考え方とは全く違うんじゃないかね。」 「香りの力で、人の心は穏やかになったが、それだけではないんだ。そういった気持ちさえも抑えていったようにわしは思うんだよ。ただ、それは本当の意味でよかったのかどうかは、当事者である限りわからんな。でも香りで多くの人の心や気持ちが良いほうに向かっていけばよいと思うんだがな。」 ガルバナムお爺さんは、母がつくった胡桃のケーキを美味しそうに食べながらそういった。母は、このところずっと忙しそうにみえて、表面上はまるで父のことを忘れているように見えているが、本当はそうではないと思う。母も懸命にこの国のために何かをやろうとしている。調香師ではないが、母にもそういった強い決意があるようにみえた。 「教会の親玉は、この国で争いを起こさせたくて仕方がないのさ。王の小さな王子にも未だに、留学に来なさいなどと持ちかけている。幸い、王はそこまでお人よしではないから、それをやんわり断っているが、もし武力にでも出てきたらどうするんだろうか。」 バジルさんは、何時もは冗談をいってばかりいるのに、こういう時になると冷静にもなれるものだと、僕は妙な感動をしてみたりした。 「ベチバー、改めアモン・スサノウ、お前は残された国のことは心配しなくてもよい。教会のやつらも多くの香水をつくってもらっているせいもあって、すぐにどうしようとは思っていないだろう。勿論、これからはどうなるかわからんが、お前は新たな香料を見つけ出してこなくてはいかん。若い力を存分に発揮してくれ。」 王から、有り余り支援を頂いたが、正直いってこの国を出て他の地にいくのは、多くの山々や砂漠に囲まれているせいもあって、並大抵のことではなかった。スサノウには、途中まで旅の商人が幾人か同行するが、それらも時々に行くことところがあって、ずっと一緒というわけではなかった。
by fenice2
| 2010-03-16 13:24
| 香りの小説
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