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香りの悪魔ー現代の癒しに潜む悪魔ラミア

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 相変わらず凄まじい不幸が、四川で起こっているので感受性の強い方や、繊細な人達は何かを感じて心が傷ついています。

 しかし、一方でそういう重たい空気が流れてくることを、鬱陶しく思い、毎日の生活の中で話題にも触れたくはないという人もいます。

 日本でも、江戸時代、東北で記録的な飢饉が起こって、悲惨な出来事で死んでいった人達がいる一方で、江戸では同時期に皮肉にも大食い大会が数多く、催されたらしく、人間はどうかすると、そういう妙なバランスをとろうとして、心を癒すことをしようとする、恐ろしい本能が潜んでいます。

 今回、今の時代の雰囲気がどういう状態にあるのか、香りで表現をしてみました。

 流石に、誰でも今の重い雰囲気は伝わっているので、何処か体調を崩していたり、気持ちが重くなったりしていると思います。そういうところから、日頃あまり量を使わない、パチュリ、ガルバナム、ネロリ、苔などを使いました。

 しかし、それとは反対にそういう香りと反発するように、明るく軽快な香り、パッションフルーツ、パイナップル、などこれも日頃使わない香りを時代の雰囲気から感じ取って、その上の香りと組み合わせることにしました。

 ローズやカトレアなど、華やかな香りは少しもそれには加える気持ちは何故かおこりませんでした。このように、極端に個性の違う香りを混ぜたのは、素人同然で香りを扱っていたとき以来ではなかったかと思っています。

 この香りの印象こそが、今の現代に漂うものですが、結果は少し落ち込んでしまうほど爽快感のある香りでした。この結果をどうとらえたらよいのか少し、戸惑いましたが僕なりに考えてみました。

 人間は苦痛を感じると、それを癒そうとしますが、それが漠然としたものであればあるほど、不安に感じて、癒す方法を夢中で模索します。マリーアントワネットが、市民から不穏な感情が高まってくるにつれて、調香師にこのうえなく甘い香りをつくるように命じたと言いますから、その因果関係がはっきりしてくると思います。

 ちなみに、調香師は彼女の香りがあまりに甘いので、「破滅の花」という名前を密かにつけていた言いますが、現代でもそれに通じる癒し産業が、これからも次々に出現してくるかと思います。

 香りも確かに、癒しの方法の中では最前線に加わっていますが、単なる癒しに振り回されるだけなら、気持ちや心から優しさや繊細を奪ってしまうことになっていまうのは目に見えています。

 上の写真は、中世の香料の秘伝の配合法を書いた本の表紙ですが、そこには左の女性の悪魔ラミアが、若い男性の兵士を騙して血をすすろうとしている様子が描かれています。

 ラミアは、秘境の技術をもたらしたものとされているそうですが、同時に人の心を誘惑して魂を奪うという悪魔の存在として、香りを扱うものに警告のような意味もあって、書かれていたそうです。

 僕が香りをつくることで、何時も心がけていることはイメージ以上のものはつくらないということです。誰もが気づくと天国や快楽を目指しているのかもしれませんが、安易に香りをつかって夢をつくるようなことはすることはありません。

 しかし、誰もが自分の心の本当のイメージを知りたがっています。現実はそれとは違っていたりしますが、心の模様や方向性を知ることは、何よりも落ち着いた考えや意志を持つことが出来るような気がします。

 マリーが本当の意味で、良い調香師を持ったらならば、市民の人達の苦痛を感じさせるようなものをものをつくっただろうと思っています。たった、それだけのことによって彼女の運命はその後は大きく変わったかもしれません。

 常に、誰かの苦しみや叫びを感じることができる感受性は必要です。余り過度に甘いものに頼ってしまったり、体を休めることや南国ばかりをイメージすることは、知らないうちに心や気持ちを弱くしてしまっているような気がします。

 人の心や気持ちは、少々傷ついていたり、暗く思えたりしても大丈夫です。何もかも払拭したり、クリーンしようとするほうが無理があるような気がします。

 香りで、自分の心を表現すると思ったよりも悪くはない状態であることがよくおわかりになると思います。香りは、そういう意味では見えない、漠然としたものを表現することは、とてもよいものだと思っています。

 
by fenice2 | 2008-05-20 01:45 | 調香・錬金術
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